我々が見出した核局在型Lynによって誘導される姉妹染色分体の分配の異常とDNA傷害剤存在下でのG2/M期の進行の異常について解析をおこなった。核局在型Lynによってキナーゼ活性依存的にG2/M期DNA損傷チェックポイントに異常が生じることを見出した。同様の表現型を内在性のSrc型チロシンキナーゼ(SFK)についても確認し、その分子メカニズムの解析を特にチェックポイントキナーゼとの関連を中心に行った。また姉妹染色分体の分配異常に関連する表現型として、SFKとスピンドルチェックポイントの関連を示唆するデータを得た。一方、ErbB4細胞内ドメインを核内に安定に発現する細胞株より、ErbB4の相互作用タンパク質を精製し質量分析によって相互作用タンパク質の解析を行った。さらに、我々が見出したAblによって誘導される核内構造の異常について、特にその生理的な意義について重点的に解析を行った。 近年受容体型および非受容体型チロシンキナーゼが核内に移行することが示され、その細胞核機能への関与に興味がもたれているが、その機能と分子メカニズムはいまだに未解明な点が多い。我々が扱っているチロシンキナーゼはいずれも細胞の癌化と癌の治療に密接に関連していることが知られているものであり、実際に臨床的に抗癌剤の分子標的となっているタンパク質群である。これらのタンパク質と、癌の化学療法・放射線治療の効果に深く関わるDNA損傷チェックポイントおよび細胞周期制御機構との関連が示されたことは、現在臨床的に用いられている抗癌剤の治療効果の分子基盤にあらたな知見を加えるものである。今後、これらのチロシンキナーゼと細胞周期制御機構との関連の解析が、癌の化学療法・放射線治療の進展に寄与することを期待している。
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