本年度は前年度のスクリーニングなどの結果を受け、個々のASK3関連分子について解析を行った。前年度ASK3結合分子として同定したTyrキナーゼはASK3を直接リン酸化することを明らかにした。また、高浸透圧刺激によりASK3がTyrリン酸化されることを見出し、ASK3の浸透圧依存的活性変化にTyrリン酸化が関わる可能性をはじめて提唱した。S2細胞を利用したRNAiスクリーニングの結果から得られたASK3フォスファターゼに関しては、低浸透圧刺激時のASK3活性化に対してネガティブフィードバックとして働くことを明らかにした。これらの知見から、これまで全く不明であった浸透圧ストレス時のASK3の活性制御機構について分子実態の一端を明らかにした。 細胞に低浸透圧ストレスを処置した際の遺伝子発現変化について、WTとASK3をノックダウンした細胞で比較を行い、c-junの発現誘導にASK3が必要であることを見出した。ASK3、c-junのノックダウンは共に細胞の増殖速度を遅らせたことから、低浸透圧下の細胞の生存にこれらの分子が重要である可能性が考えられる。前年度の研究からASK3は遺伝性高血圧症の原因タンパク質と相互作用し機能を調節すること、およびASK3ノックアウトマウスは高血圧症の傾向を示すことを明らかにしていたが、ASK3の浸透圧依存的な活性変化が、この原因タンパク質の活性調節に重要であることを見出した。また、高食塩食をASK3ノックアウトマウスに与えるとWTでは影響のない濃度で血圧が上昇することを見出した。以上より、ASK3は個体レベルでもNaCl過負荷など体液の浸透圧に関わるストレスに応答していると考えられる。本研究の結果はこれまで未知であったASK3を介する浸透圧ストレス応答機構の解明を通じて、高血圧症など体内の水分や浸透圧の調節不全に原因のある病態の理解に繋がると考えられる。
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