研究代表者は、神経伝達物質グルタミン酸の前駆物質であるグルタミン(GIn)輸送を担うグルタミントランスポーター(GInT)が、神経細胞だけでなくアストロサイトにおいても機能的に発現することを世界で初めて見出した。昨年度の研究成果から、アストロサイトやC6グリオーマ細胞(アストロサイト様細胞株)にGInTを過剰発現させることにより、それら細胞が酸化的ストレス脆弱性を示すことが明らとなった。そこで本年度はアストロサイトに発現するGInT発現量の変化がどのような生理的意義を持つのかをさらに追求する自的で、GInTを過剰発現させたC6グリオーマ細胞のコンディション培地を用いた条件下において、神経細胞にどのような機能的変化がもたらされるのかについて検討を加えた。その結果、GInT安定発現C6グリオーマ細胞のコンディション培地を用いることによリグルタミン酸誘発性神経細胞死が抑制されること、およびGInT安定発現細胞株ではNGFあるいはNT4/5といった神経栄養因子の発現が誘導されることが明らかとなった。したがって、アストロサイトにおけるGInTの発現量増加は、アストロサイトの酸化的ストレス脆弱性を惹起するだけでなく、神経毒性に対しては神経栄養因子の誘導を介した保護作用を発揮する可能性が示された。本研究成果より、GInTが神経細胞やアストロサイトといった中極神経系構成細胞の生存調節に重要な役割を担っていることが明らかとなったので、今後さらにその詳細なメカニズムを解明することにより、現在発症機構が不明な難治性神経変性疾患の発症機構やあるいは治療法に画期的な知見をもたらすことが期待される。
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