細胞外ヌクレオチドは炎症組織等において、プロスタノイドのような種々のケミカルメディエーターとともに、細胞障害の初期応答因子として働くことが知られている。本研究は、マクロファージ細胞を取り巻くプリン作動性シグナルを明らかにし、炎症病態におけるその役割を解明することを目的として遂行している。これまでの検討から、マウス由来マクロファージ細胞株であるJ774細胞では細胞外ヌクレオチド受容体としてイオンチャネル型のP2X_4、P2X_7およびG蛋白質共役型のP2Y_2、IP2Y_6の発現が認められた。また、これらのプリン受容体を介する細胞内Ca^<2+>濃度([Ca^<2+>]i)上昇作用を指標とした場合、それらはいずれも機能的であり、その上昇作用の程度は炎症反応に関与するケモカインの一つであるマクロファージ炎症性蛋白質(MIP)-1αの遊離促進作用と関係していた。したがって、ATPやUDPをはじめとする細胞外ヌクレオチドは、炎症を促進する作用があると考えられた。一方、炎症反応において主要な働きを担うプロスタグランジンE_2(PGE_2)が、これらの細胞外ヌクレオチドの作用を受容体特異的に抑制することを見いだした。すなわち、PGE_2はP2X_4、P2Y_2およびP2Y_6による[Ca^<2+>]i上昇ならびにMIP-1αの放出を抑制したが、P2X_7を介する反応は抑制しなかった。この作用の差異はPGE_2による抗炎症作用の差と関連するかもしれない。J774細胞においてPGE_2の作用を媒介する主な受容体としてEP2が認められ、既報よりGs蛋白質/cyclicAMP経路の関与が示唆されるが、詳細については現在検討中である。本研究は、炎症病態における細胞外ヌクレオチドおよびPGE_2によるマクロファージ機能の調節機構を明らかにするとともに、それらを標的とした治療薬開発の基礎的研究として、意義ある成果と考える。
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