神経接着分子L1は、免疫グロブリンファミリーに属する膜貫通型糖タンパク質である。L1の細胞外ドメインには、6個のイムノグロブリン様ドメイン及び5個のタイプIIIフィブロネクチン様ドメインがあり、細胞内ドメインには、様々なジグナル伝達会子と相互作用するためのシグナルペプチド配列がある。神経発生段階において、L1ほその細胞外ドメインを介してL1同士あるいはインテグリン等との相互作用により、神経軸索形成や神経細胞運動などの機能を担っている。実際に140種類以上のヒトL1遺伝子のミスセンス変異により水頭症などの重篤な脳神経疾患の発症に至ることが知られているが、その作用機序は不明である。そこで私はこれら重篤な症状を引き起こすL1遺伝子変異体(およそ30種類ほど)を神経細胞内に発現させた結果、12種類ほどの変異体が、細胞膜に局在できずERやゴルジ体などの細胞内小器官に蓄積し、細胞接着能を失っていることを明らかとした。興味深いことに、L1は神経軸索特異的な局在を示すが、これら変異体は、軸索特異的な局在を示さず樹状突起や細胞体に局在した。これらに変異体に共通して確認されたタンパク質レベルでの変化としては、トランスゴルジ体での糖鎖修飾が全く行われずにポリユビキチン化修飾を受け、凝集体を形成していることが確認された。これら糖鎖修飾されなかった変異体のほとんどは、L1の細胞外ドメインにあるタイプIIIのフィブロネクチン様ドメインに点変異の入った変異体であった。このようにL1の糖鎖修飾め異常により、細胞膜への分泌経路が阻害され神経軸索に局在化できないために重篤な神経疾患を引き起こすことが考えられた。現在、フィブロネクチンtypeIIIドメインと相互作用するタンパク質分子のスクリーニングを行い、分泌経路における糖鎖修飾の役割の解明を目指していている。
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