細胞間接着現象は、脳の形態形成や記憶・学習などの高次機能において大変重要な役割を果たしている。神経接着分子であるL1は、細胞表面に局在する膜貫通型のN-型糖タンパク質で、神経軸索形成や細胞接着といった生理機能の制御を司っている。一般的に糖鎖修飾された接着分子は、その糖鎖を介して様々な接着分子との相互作用が行われていることが知られているが、L1におけるN-型糖鎖修飾の生理学的な機能については不明である。大変興味深いことに申請者は、水頭症などの重篤な脳神経疾患の発症に至ることが知られるL1変異体の中に、N-型の糖鎖修飾が行われず細胞膜表面に輸送されないものがあることを見出した。実際にL1のN-型の糖鎖修飾を抑制するような薬剤(ツニカマイシン等)存在下で培養細胞に処理すると、細胞膜表面にほとんど発現できずに、細胞内のゴルジ体やエンドソーム内に異常に蓄積していた。これらのことはN-型糖鎖修飾されることがL1の細胞内メンブラントラフィックに大変重要であることを示唆している。さらにこうした変異体は、高分子量の凝集体を形成し、リジン63で繋がったポリユビキチン化修飾が野生型に比較して異常に亢進されていた。即ち、水頭症などの原因となるL1変異体は、細胞内での正常な糖鎖修飾が行われていないために、コビキチン化修飾された後、ゴルジ体からエンドソームを介して最終的にリソソームで分解除去されているというとが考えられた。そこで申請者はL1を糖鎖修飾するタンパク質を同定するために、酵母ツーハイブリッドシステムを行った。しかしながらL1と相互作用すると知られているクローン以外、目的とする糖鎖修飾関連酵素は同定できず、今後の研究課題として残された。
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