当研究室(癌研分子薬理部)では、PI3Kを標的とした抗がん剤候補物質ZSTK474を世界に先駆けて見出し、臨床試験に向けて開発を進めている。研究代表者らはこれまでに、 ZSTK474は固形腫瘍由来のがん細胞株に細胞周期停止(GO/ G1 アレスト)を引き起こすが、アポトーシスは起こさないことを明らかにしてきた。本研究課題では、ZSTK474 による抗腫瘍効果がGO / G1 アレストに起因するかを広く確かめるために、計10種類のがん細胞株にZSTK474 を暴露した。その結果、すべての細胞株で顕著なアポトーシスを認めず、GO/ G1 アレストを誘導した。このことから、ZSTK474 は一般に、がん細胞株にGO/G1 アレストを誘導することにより抗腫瘍効果を発揮するものと結論された。また、ZSTK474 によるGO/ G1 アレストの分子機序を解析するために、ヒト前立腺がん細胞PC-3 ・ヒト肺がん細胞株A549を用いて、ZSTK474暴露後にがん細胞の中で発現変動する遺伝子群をGenechip で明らかにした。これらのうち特にGO/ G1 アレストとの関連が予想される因子について、RT-PCR による遺伝子発現の確認、プロモーター活性の解析、タンパク質レベルでの発現変動解析を行った。その結果、CDKインヒビターp15INK4b の発現誘導と、CDC25A の発現抑制が認められた。これらの発現変動がGO/ G1 アレストに関わるものと考えられた。
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