Laeverinは、正常な胎盤形成に関わる新生児由来の絨毛外栄養膜細胞(EVT)の細胞表面抗原として単離されたタンパク質であり、M1アミノペプチダーゼファミリーに分類される。本研究では、Laeverinの生理的役割を明らかにし、本酵素をターゲットとした新たな作用メカニズムを持つ創薬開発に向けた分子基盤を構築することを目的とする。ヒトLaeverinでは、M1ファミリー分子間で保存されているエキソペプチダーゼモチーフ(GAMENモチーフ)中のGly残基がHis残基へと置換されHAMEN配列になっている。 そこで、本残基がユニークなLaeverinの酵素学的性状の発現においてどのような役割を担っているかについて解析した。具体的には、バキュロウイルス発現系を用いて、様々なLaeverinのHis-379残基点変異体を調製し、これら変異体Laeverinについて生化学的解析を行った。その結果、本残基は、ヒトLaeverinの基質特異性の発現や触媒作用に重要であることが明らかとなり、さらに立体構造モデルより、本残基が触媒ポケット構造の維持に重要な役割を果たしている可能性を提示できた。これらの結果は、本酵素をターゲットとする創薬開発に向けて有用な知見となり得る。一方、げっ歯類のLaeverinでは、エキソペプチダーゼモチーフがGAMENであることから、その酵素学的性状や生理作用は、ヒト酵素とは異なっていると推測される。ヒトとげっ歯類では、EVTの子宮動脈への浸潤やその後の血管新生リモデリングなどの胎盤形成機構が大きく異なっていることが知られている。さらにLaeverinがEVTの細胞膜表面に発現していることを考え合わせると、ヒトとげっ歯類のLaeverinの酵素活性の差異が、それぞれの種のEVTの細胞機能に差異を生じ、ひいては胎盤形成の過程の違いにまで反映されると考えられた。
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