細胞の核は核膜と呼ばれる膜により細胞質から隔てられている。その核膜は細胞分裂時に崩壊し、染色体の分離が終了した後、再び形成される。核には細胞の設計図である遺伝子が存在するため、細胞質との間の物質の輸送は厳密にコントロールされている。物質のやりとりは核膜上に存在する核膜孔と呼ばれるチャネルにより行われている。核膜孔は単純拡散によっては分子量約60k以上の分子は透過できない。そのバリアは細胞分裂直後に形成され、60k以上の分子は細胞周期を通して核内へ拡散できないというのが現在のモデルである。今回、細胞分裂直後の核膜の透過性変化を、紫外線照射により蛍光特性を変化させることのできる蛍光タンパク質KikGRを用いて調べた。この蛍光タンパク質は分子量103kであり、核膜を透過できないはずである。細胞周期の間期においては確かに細胞質から核への拡散はほとんど観察されなかった。しかしながら、細胞分裂後、30分間は細胞質から核への拡散が観察された。さらに、分子量が210kの分子の拡散を調べると、細胞質分裂後、約10分は細胞質から核への拡散が観察された。つまりバリアは細胞分裂直後はゆるいことが明らかとなった。この時の細胞から核への物質の能動輸送能を調べると、細胞質分裂直後からその機能は働いていることがわかった。つまり、能動輸送により積極的に細胞質から核へ物質の取り込みを行っているが、一方で核を細胞質から隔てるべき核膜はゆるいことがわかった。これまでは核膜の透過性は細胞周期を通じて一定であると考えられてきたが、細胞分裂直後は透過性が非常に高いことを明らかにした。本発見は細胞の働き方を考える上で重要な知見である。
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