亜鉛イオンは、蛋白質の構造の安定化や酵素の触媒活性に関わる極めて重要な生体物質である。また、近年では、細胞内のシグナル伝達に関わり、免疫機能や細胞のアポトーシスなどの様々な生命現象において重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。本研究では、亜鉛イオンの細胞内の濃度変化を転写活性により高感度に検出する技術を開発することを目的として、亜鉛イオン濃度に応じてDNA結合配列を変化させることのできる人工蛋白質の設計に取り組んだ。これまでに、亜鉛イオンとの結合によって、構造変化を誘起しDNA結合能を低下させることのできる人工蛋白質Ant-Fの設計に成功している。Ant-Fは、亜鉛イオン非存在下において、ATリッチな配列に結合し、亜鉛イオンとの結合により、DNA結合能を低下させる。これに対し、天然に存在する亜鉛結合タンパク質である亜鉛フィンガーSp1は、亜鉛イオンとの結合により、GC配列に富んだDNAに結合することが知られている。そこで、Sp1とAnt-Fの融合蛋白質は、亜鉛イオンとの結合により異なるDNA配列に結合すると考えた。この融合蛋白質を亜鉛イオンの有無に応じて、DNA結合配列が変換できるかどうかをゲルシフト法で検討した。その結果、亜鉛イオン存在下においては、GCリッチな配列に結合し、亜鉛イオン非存在下においては、ATリッチな配列に結合することが明らかとなった。以上の結果より、亜鉛イオンとの結合により、DNA結合配列を変換させることのできる人工蛋白質を創製した。
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