研究概要 |
感染症対策の分野において、臨床で用いられる既存の抗菌剤に抵抗性を示す多剤耐性菌の出現・増大はますます深刻な問題となっている。そのため、対象とする微生物の増殖・生存に必須でありながらも、これまで十分には検討されていない新規な標的酵素の探索は、医薬化学研究の中できわめて重要な分野の一つである。そのような抗生物質の標的酵素としてグルタミン酸ラセマーゼに申請者は注目している。本酵素はグルタミン酸のラセミ化を行い、細菌が持つ細胞壁中のペプチドグリカンの生合成に必須なDーグルタミン酸をL-グルタミン酸から供給する役割を持つ。本酵素は人体には存在しないためにその選択的阻害剤はヒトへの副作用がないことが期待され、選択毒性の観点からは理想的な標的酵素である。本研究では酵素反応基質の遷移状態アナログとして強力に本酵素を阻害すると期待されるD-3-フルオログルタミン酸誘導体を評価し、新規な作用機構に基づく抗生物質のリード化合物の導出を行うものである。 本年度では、L-セリンより出発し、DASTフッ素化反応を鍵工程に用いて14工程にて(2s, 3の-3-フルオログルタミン酸の合成をジアステレオ選択的に行った。さらに本研究で合成した化合物のs, peumioneaeθに対する最小生育阻害濃度(MIC)を求めて抗菌活性を評価したところ、弱いながらも(2S, 3S)の-3-フルオログルタミン酸に抗菌活性が認められ、D-3-フルオログルタミン酸がグルタミン酸ラセマーゼを阻害することが示唆された。
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