研究概要 |
感染症対策の分野において、臨床で用いられる既存の抗菌剤に抵抗性を示す多剤耐性菌の出現・増大はますます深刻な問題となっており、対象とする微生物の増殖・生存に必須でありながらも、これまで十分には検討されていない新規な標的酵素の探索は、医薬化学研究の中できわめて重要な分野の一つである。そのような抗生物質の標的酵素としてグルタミン酸ラセマーゼに申請者は注目し、本研究では酵素反応基質の中間体アナログとして強力に本酵素を阻害すると期待されるD-3-フルオログルタミン酸誘導体ならびにその4-位誘導体の合成ならびに抗菌活性の評価を行い、新規な作用機構に基づく抗生物質のリード化合物の導出を目指した。 前年度では、(2S,35)-3-フルオログルタミン酸の合成をL-セリンより出発して14工程にてジアステレオ選択的に行い、S.peumoniaeに対する活性を評価したところ、弱いながらも抗菌活性が認められた。この結果をうけて今年度では(2S,3R)-3-フルオログルタミン酸のジアステレオ選択的合成を種々試みたが、ジアステレオマー間の反応性の相違によって鍵工程を成功させることが出来ず、現在の所ジアステレオマー混合物として変換を行って最終工程にてカラムクロマトによる(2S,3S)および2S,3R)ジアステレオマー間の分離を行っている。また、四位アルキル置換誘導体の合成も試みたが、現在のところ四位置換基の導入には成功しているもののその後の最終目的性生物への変換工程が満足のいくものではないため、改善の余地を残している状態である。
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