イチョウ(銀杏)は2億5千万年前から存在し、「生きた化石」と呼ばれている最古の植物である。イチョウ葉の抽出液(EGb761)は記憶力の減退や抗欝、めまい、耳鳴や痴呆の治療に有効であることから、ドイツやフランスなど多数の国で医薬品として取り扱われている。近年、我が国でも、健康ブームからイチョウ葉エキスを用いた製品が多数販売されている。イチョウ葉エキスの有効成分はフラボノイド類とギンコライド類である。特にギンコライド類は唯一イチョウから単離された天然物であり、その構造は天然物として極めて稀なtert-ブチル基を有した、高度に酸化された複雑なカゴ型構造を持つジテルペノイドである。分子内の水酸基の数の違いによりギンコライドA、B、C、JおよびMが知られている。ギンコライド類が血小板活性化因子(PAF)受容体、GABA_A受容体およびグリシン受容体の拮抗剤として働くことはすでに報告されていたが、近年、申請者等によりギンコライド類が脳虚血後の梗塞部位の脳神経細胞保護作用を示すことが明らかになってきた(未発表)。本研究ではギンコライド類の作用機序を陽電子放射断層画像撮影法(PET法)等により明らかにすることを目的とし、神経変性疾患の診断マーカーおよびその治療薬の創成を目指し行っている。昨年度は、1)市販のイチョウ葉粉末1.5kgからギンコライド類約20gの単離 2)ギンコライドBの誘導体合成(フッ素化体)を行った。ギンコライドBの誘導体が脳梗塞マウスに有効であることが判明したので本年度は1)フッ素18[^<18>F]-ギンコライドB誘導体(ギンコライドのPETプローブ)の合成2)ギンコライドのPETプローブをもちいた体内動態解析(健常ラットを使用)を行った。その結果、今後モデルラットでの体内動態解析を行い、目的部位への集積が確認されれば、治療薬および診断薬としての利用の可能性が示唆された。
|