研究概要 |
間葉系幹細胞(MSC)は,多分化能を有する組織由来幹細胞である.MSCは神経様細胞に分化することが報告されており,MSCを用いた神経疾患の細胞治療の実現に期待が集まっている.一方,未分化MSCを移植すると,異所性分化や制御不能な増殖が引き起こされる可能性があり,移植時に未分化MSCの混入を防ぐことの重要性が示唆されている.しかし,MSCと神経細胞のマーカーの多くは共通して発現しており,両者を識別することは難しい.MSCを用いた細胞治療を実現するためには,未分化MSCと神経様細胞を識別するための分子マーカーを見出すことが不可欠である.糖鎖は,細胞の分化に関係することが知られており,MSCの神経様分化におけるマーカーとして利用できる可能性がある.そこで,本年度は,まず,簡便,正確且つ再現性の高い糖鎖定量法の開発を目的として,昨年度報告したフェニルヒドラジン(PHN)を用いる定量的糖鎖プロファイリング法の改良を行った.また,その改良法を用いて,MSCの神経様分化前後の細胞の糖鎖差異解析を行い,マーカーとして利用可能な糖鎖を探索した.PHNラベル化糖鎖の安定性を向上をさせるために,ラベル化糖鎖の還元を検討したところ,2-ピコリン-ボラン複合体をPHNラベル化試薬に添加することにより,ワンステップで糖鎖をラベル化し,還元できることを明らかにした.この改良ラベル化法を利用した定量的糖鎖プロファイリング法により,MSCの神経様分化前後の細胞のN型糖鎖を比較定量した結果,分化後の細胞では,トリシアロ複合型糖鎖の結合量が減少し,その他の高分岐複合型糖鎖は増加することが示された.この糖鎖プロファイルは,MSCの神経様分化過程におけるマーカーとして利用できる可能性が示唆された.今後,本分析法を用いて神経分化関連糖タンパク質の糖鎖構造の変化についても検討する予定である.
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