研究概要 |
病態に関わる細菌種の遺伝子発現制御システムの解明は,病原微生物の病原性解明への重要な糸口となる.様々な菌種のゲノム情報が明らかとなり情報処理により比較ゲノムが可能となった現在では,これらの比較ゲノム情報から属として保存されている遺伝子領域あるいは発現機構を解析することが可能となっている.しかし,今回,対象としているレンサ球菌属(genus Streptococcus)では病原性細菌の中でも比較的GC含量が低いために,大腸菌や枯草菌のゲノム解析から得られる様々な転写因子・転写に関わる遺伝子領域の特定が容易ではなく,それ故にゲノム解析以前の情報から得られている転写因子を中心に解析が進められている.そのため,本研究では,ゲノムを網羅するタイリングアレイを用いて,ゲノム上にコードされる遺伝子の発現領域を決定すると同時に,既存のcDNAアレイを用いた解析から感染状態で得られる発現プロファイルを元に,病態の発現に関わる転写因子群を探索した.まずcDNAアレイおよびタイリングアレイを用いて,ヒト,マウス細胞内に侵入したA群レンサ球菌由来のRNAの特異的な抽出と解析方法の確立を行った.得られたデータから導かれたnon-coding RNAは58個にも及んでいた.また,宿主細胞内で自然免疫に対抗して生存するために必要な遺伝子を8個抽出することができた.これらについて詳細な機能解析を行ったところ,A群レンサ球菌では,新規non-coding RNAや現在機能未知の遺伝子群を利用することにより,多彩な病原性を発揮しているものと考えられた.
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