現在、HIV感染症/エイズに対する治療法は、ウイルス性酵素を標的とする逆転写酵素(RT)阻害剤やHIV-1 protease阻害剤等を組み合わせた抗レトロウイルス療法(ART)であるが、ARTの導入以来、体内のウイルス複製を効果的に抑制することが可能になった。しかし残念なことに、ARTは根治療法ではなくHIV-1を完全に体内から排除することができないことから、抗HIV薬を生涯にわたり服用し続けなければならない。そして現行ARTで避けられない深刻な問題は、薬剤耐性HIV-1出現である。そこで本研究では、薬剤耐性ウイルス出現回避及びウイルス弱毒化を指向したHIV-1複製制御法を確立すること目指している。これまでに、複数存在するN-myristoyltransferase(NMT)のisozymeの中で、NMT1LがHIV-1の産生と密接に関連することを報告してきた。平成20年度は、NMTを介しHIV-1複製制御を目指すにあたり、細胞内局在の観点でNMT各isozyemの特徴付けを行った。NMT1は細胞質、リボゾーム、核、ミトコンドリアに局在していることが示唆され、それぞれの局在と関連するNMT1L分子内の領域の特定を行った。特に注目されたのはリボゾーム局在に関連する領域が示唆されたことである。HIV-1の構造タンパク質Gagは、タンパク質翻訳時にリボゾーム付近でミリストイル化を受けると考えられるので、この知見はNMT1Lのリボゾームにおける特異的な阻害につながると考えられ、NT1Lを介したHIV-1複製特異的な阻害戦略の構築に結びつくと期待される。
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