研究概要 |
ナノテクノロジーは豊かな未来社会を担う新技術として期待される一方で、ナノ粒子による健康や環境への影響が懸念されている。また、アレルギー患者の増加は環境汚染と密接な関係があることが指摘されており、今後ナノ粒子の生産増加に伴い、ヒトは大気中、または食事からナノ粒子に曝露される機会が増加することが予想され、鼻粘膜、肺組織さらには体内臓器への蓄積により免疫系の異常などの影響を受ける可能性がある。 本研究では、ナノ粒子としてカーボンナノチューブを用いて、アレルギー反応に及ぼす影響を検討した。ナノ粒子を抗原とともにマウスの鼻腔から気管内に投与することにより感作を行い、その後抗原を気管内に繰り返し投与することにより反応を誘起した。その結果、カーボンナノチューブを抗原とともに投与することで感作したマウスでは、抗原もしくはカーボンナノチューブ単独の群に比較して明らかな二相性の気道抵抗の上昇の増悪が認められた。また、肺胞洗浄液中の炎症細胞については、とくに好酸球の上昇がカーボンナノチューブと抗原とで感作したマウスにおいて顕著であった。これらの結果より、カーボンナノチューブはアレルギー反応を増悪させ、さらには強いアジュバンと効果を示すことが明らかとなった。本結果は、アレルギー反応の増悪化にナノ粒子が関与する可能性を示唆する興味深い成績であり、本増悪化はナノ粒子が免疫系への異常などを引き起こした結果であると考えられる。 今後、ナノ粒子による本アレルギー反応の増悪メカニズムを詳細に検討することを試みる。ナノ粒子と抗原で感作したマウスにおける血中の抗体価(IgE, IgG1など)、サイトカイン(IL-4, IL-5, IL-13, IL-1βなど)などのさらなる上昇が認められるか検討するとともに、肺の病理組織学的な検討も行う予定である。また、カーボンナノチューブのサイズの違いがアレルギー反応の増悪の程度に違いが認められるかについても検討する予定である。
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