ナノテクノロジーは豊かな未来社会を担う新技術として期待される一方で、ナノ粒子による健康や環境への影響が懸念されている。20年度の研究では、ナノ粒子を抗原とともにマウスの鼻腔から気管内に投与することにより感作を行い、その後抗原を気管内に繰り返し投与することにより反応を誘起した。その結果、カーボンナノチューブを抗原とともに投与することで感作したマウスでは、抗原もしくはカーボンナノチューブ単独の群に比較して明らかな二相性の気道抵抗の上昇の増悪が認められた。また、肺胞洗浄液中の炎症細胞については、とくに好酸球の上昇がカーボンナノチューブと抗原とで感作したマウスにおいて顕著であった。 21年度では、さらなる解析を目的として、抗体産生および病理組織学的評価を行った。その結果、カーボンナノチューブによりIgE、IgG1およびIgG2aのさらなる産生増加が観察された。また、病理組織学的には、肺への炎症細胞の浸潤の増強も観察された。さらに興味あることに、慢性肺疾患において認められる気道リモデリングの組織学的変化である杯細胞の過形成のさらなる増加が観察された。一方、カーボンナノチューブ単独でも杯細胞の過形成は弱いながらも誘起された。 これらの結果より、カーボンナノチューブはアレルギー性気管支喘息症状の全般を増悪させ、さらには強いアジュバンと効果を示すことが明らかとなった。本結果は、アレルギー反応の増悪化にナノ粒子が関与する可能性を示唆する興味深い成績であり、本増悪化はナノ粒子が免疫系への異常などを引き起こした結果であると考えられる。
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