鉄イオン(以下、鉄)は細菌を含むほとんど全ての生物の生存、増殖に必須な元素である。Acinetobacter baumanniiは日和見感染菌の1つに分類され、近年、本菌の抗生物質多剤耐性化が臨床現場で問題となっている。本菌の生存、増殖においても鉄は必須の元素であり鉄欠乏ストレスに応答してacinetobactinと呼ばれるシデロフォア(三価鉄輸送キレーター)を産生し、特異的な鉄制御外膜受容体(BauA)を介して鉄を取り込むことが明らかにされている。本研究では、BauA以外に鉄欠乏条件下、発現が認められる外膜蛋白質5種についてそのN末端アミノ酸配列を決定し、そのうち2種については全長遺伝子をクローニングした。当該遺伝子は大腸菌などが産生するシデロフォア、aerobactinに対する受容体IutAとcoprogenに対する受容体FhuEにそれぞれ相同性が認められた。本菌は鉄欠乏条件下、aerobactin、coprogen添加により増殖が促進することを明らかにし、外因性シデロフォアとして利用能を有していた。さらにfhuE homologについて挿入変異株を作製し、その機能を解析したところ、coprogen、rhodotorulic acidを介した鉄輸送に関与していることが明らかとなった。一方、臨床分離株29株についてシデロフォア産生の有無とその分類を行ったところ、22株においてシデロフォア産生が認められ、11株ではacinetobactinの産生が検出された。その他、7株ではcatechol系シデロフォア、4株ではhydroxamate系シデロフォアの存在が検出され、本菌でのシデロフォア産生における多様性が示唆された。
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