研究概要 |
本研究では、高脂血症薬であるスタチンが肝臓でのトランスポータ発現に与える影響およびその制御機構の解明を目的とした。この機構を明らかにすることでスタチン投与時の薬物動態変動を予測することが可能となり、スタチンの適正使用につながると考えられる。8種のスタチンをヒト肝臓癌由来株化細胞HepG2に24時間曝露した後のABCトランスポータ発現変動を解析した。その結果、肝臓から胆汁中への薬物排出に関わるMRP2はmRNAレベルで増大することが明らかとなった。さらにスタチン(30mg/kg)をラットに経口投与後24時間後の肝MRP2発現も同様に増大した。またスタチンの種類によりその増加の程度は異なり、特にシンバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチンにおけるMRP2 mRNA発量の増大が顕著であった。スタチンがMRP2に与える影響を考察するにあたり、同じく肝臓に発現するABCトランスポータであるABCA1に着目した。肝臓においてHDL合成に関わるABCA1は、核内受容体LXRにより転写調節を受ける。そこでスタチンがABCA1に与える影響を検討した結果、薬物間に差はあるものの、スタチン曝露によってABCA1 mRNA量は増大することが明らかとなった。さらにスタチンによるMRP2発現変動とABCA1 mRNA発現変動との関連性を検討したところ非常に高い相関性を有する(r=0.758, p<0.0001, n=24)ことが明らかとなりMRP2発現変動にLXRを介した調節機構が関与していることが強く示唆された。本検討によりスタチン投与時においてMRP2の基質となる薬物の胆汁中への排泄が促進される可能性が示唆された。今後は、LXR活性化がMRP2発現に与える影響を詳細に解析するとともにMRP2とならび代表的なABCトランスポータであるP-gp, BCRPに与える影響について検討を行っていきたい。
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