医薬品を適正に使用するにあたっては、臨床薬物動態特性と個体間変動機構を明らかにし、患者個々に投与設計を行うことが必要である。一方、薬物個別投与設計を遂行する上で不可欠であるにも拘わらず最も企画と実施が困難なものの一つは、実際に薬を服用している患者を対象とした臨床薬物動態試験である。しかし、一人の患者から速度論的解析に耐えるほど数多くの血中薬物濃度データを得ることは多くの場合困難であることに加え、市販後に一施設で行う臨床薬物動態試験では、対象患者が多くても数十人に限られる。このような場合、従来の速度論的解析法は適用が難しく、臨床試験の成否の目処を立てることが困難であった。最近申請者は、薬剤を繰り返し服用中の個々の患者に対して2点のみの採血を行い、血中濃度のピーク値(C_<peak>)とトラフ値(C_<trough>)を解析する事によって、薬物血中濃度曲線下面積(AUC)と経口クリアランス(CL/F)を簡便に推定する方法を考案した。平成21年度は2点採血デザインの有用性を再検証するとともに、実際の臨床試験で得られた薬物動態情報を医療現場に提供する事を目的として、小児肺高血圧患者を対象とした肺高血圧症治療薬ボセンタンの臨床薬物動態試験を行った。その結果、小児集団では年齢がボセンタンの体内動態の変動因子の一つである事が明らかとなった(論文執筆中)。本研究の知見は小児患者に対してボセンタンの個別投与設計を行う際に有用な基礎的知見と考えられる。また、薬物連投時のAUC推定及びその精度に関するコンピュータシミュレーションを実施した結果、少数(2~3点)採血デザインによるAUC推定精度は、事前のモデル構築を必要とするLSM法と比べても遜色ない事が明らかとなった。以上の結果は2点採血デザインの臨床的有用性を示唆する結果であると考えられる。
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