研究概要 |
近年,過食や運動不足等の生活習慣を背景として,脂肪肝炎(Non-alcholic steatohepatitis, NASH)が年々増加しており,今後NASHからの肝硬変・肝がんの増加が懸念されるため,NASHの治療法開発は急務である.しかし,これまでに糖尿病治療薬,高脂血症治療薬などによる薬物療法が試みられたが,十分な有効性と安全性は得られておらず,治療法は未だに確立されていない. そこで,申請者は,C57BL/6Jマウスを高脂肪・高コレステロール食で飼育することにより独自に作出したNASHモデルマウスにおいて、酪酸菌製剤の効果を検討した。酪酸菌製剤の病原性腸内細菌を減少させる作用と肝臓おける酪酸の作用により,肝臓の炎症だけでなく,NASHの前段階である脂肪蓄積をも改善させる可能性があり,酪酸菌製剤の治療応用の可能性を検討する本研究の着想に至った. 酪酸菌製剤の投与後、4、8、16、および32週のいずれの時点においても肝臓では脂肪蓄積、炎症、および線維化のいずれもが抑制されていた。今後、酪酸菌製剤の作用メカニズムを明らかにするために、DNAマイクロアレイを用いた包括的な発現遺伝子解析を行う予定である。 また,培養細胞の実験においては,5種類(酢酸・プロピオン酸・酪酸・カプロン酸・吉草酸)の短鎖脂肪酸のうち、酪酸が最も強く脂肪酸β酸化系遺伝子群のmRNA発現を上昇させた。これには,酪酸がAMP activated protein kinaseを活性化させること、および酪酸がヒストンのアセチル化を促進させることが関与していることを見いだした.本研究は,酪酸が脂肪酸燃焼を促進させることを明らかにし,酪酸菌製剤が脂肪肝炎の治療に有用である可能性を示した.
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