がん患者において、フェンタニルの体内動態には、大きな個人差が存在する。そのため、他のオピオイドからフェンタニル貼付剤への切り替えに際し、推奨される投与量換算比を適用できない場合がある。本研究では、フェンタニル貼付剤への切り替え後におけるその体内動態と有害反応および鎮痛効果に及ぼすチトクロムP450(CYP)3A5とP-glycoprotein (ABCB1)の遺伝子変異の影響について評価した。がん性疼痛に対し、他の経口オピオイドからフェンタニル貼付剤へ切り替えを実施した60名の患者を対象とした。貼付剤に切り替えてから192時間後の血中フェンタニル濃度を評価した。さらにその期間における有害反応と体動時痛以外の疼痛に対するレスキュー投与の発現リスクを評価した。血中フェンタニル濃度の吸収速度で補正値はCYP3A5*3/*3群で、*1/*1+*1/*3群と比較して、約2倍有意に高値を示した。中枢性有害作用の発現リスクは、CYP3A5*3/*3を有する患者で、3.5倍有意に高かった。便秘や嘔気の発現リスクは、ABCB1 2677AA、AT、TTを有する患者で、高くなる傾向が認められた。レスキュー投与の発現リスクはABCB1 1236TTを有する患者で、有意に1/6に低下した。さらに、ABCB1 3435TTを有する患者でも、レスキュー投与が減少する傾向が認められた。以上より、CYP3A5*3は血中フェンタニル濃度を上昇させることが示された。さらにCYP3A5*3とABCB1 C1236Tの遺伝子変異は、他の経口オピオイドからフェンタニル貼付剤への切り替え後の中枢性有害作用と鎮痛効果の個人差を規定する要因となることが示された。
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