研究計画初年度である平成20年度は腎障害モデル動物として、2mg/kgシスプラチンを投与した尿細管障害モデルおよび10mg/kgシスプラチンを投与したGFR低下モデルを作製し、腎機能の評価を行った。さらに、これらモデルラット腎臓より近位尿細管を単離してマイクロアレイ解析を行い、尿細管遺伝子発現プロファイルを構築した。この遺伝子群から尿細管由来のシスプラチン腎症規定因子の探索を続けている。 正常及び慢性腎不全モデル動物の腎mRNA発現データベースを用いたin silicoデータ解析により新規トランスポータ候補遺伝子を抽出した。さらに、siRNAを用いた機能解析を行い新規リボフラビントランスポータRFT1の同定に成功した。哺乳類でリボフラビントランスポータの分子実体はこれまで明らかにされておらず、RFT1の同定によりリボフラビンの恒常性に関する分子機構の解明とリボフラビン欠損症の病態生理機構の解明につながると期待される。 また、ヒト尿細管上皮細胞モデルが確立されておらず、in vitroでの腎排泄能の予測は困難であった。今回、ヒト有機カチオン輸送系OCT2/MATE1を発現させたダブルトランスフェクタントを構築した。これにより、培養細胞を用いたカチオン性薬物の経細胞輸送の評価が可能となった。さらに、白金系抗がん剤の中で唯一オキサリプラチンが、幅広い組織分布を示す有機カチオントランスポータOCT3に輸送されることを明らかにした。この成果は、オキサリプラチンの大腸がんに対する効果発現という特徴的な薬理作用を考える上で重要な情報になると考えられる。
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