本研究ではアンギオテンシンII(ATII)を用いて昇圧し、一過的に腫瘍内の血流を増加させることにより、抗がん薬封入リポソーム製剤の腫瘍組織への集積性を高め、高い治療効果を得ることが出来るか検討した。腫瘍内血流量が多いマウス大腸がんColon26、あるいは腫瘍内流量が低いマウス肺がんLewis lung cancer(LLC)担がんマウスに、ドキソルビシン封入PEG修飾リポソーム製剤(DXR-SL)を尾静脈内投与した。その後、ATIIを点滴投与し、最高血圧を150mmHgで25分間維持した。投与24時間後にDXRの腫瘍集積量をHPLCにより定量したところ、AT IIの昇圧の有無に関わらず、DXRの腫瘍集積量に有意な差は観察されなかった。しかしながら、蛍光標識リポソームとDXRの局在を蛍光顕微鏡で観察したところ、昇圧群においては血管から離れた部位に蛍光標識リポソームとDXRが観察されたのに対し、非昇圧群では血管周辺に観察された。さらにDXR-SL投与後に昇圧した群では、Colon 26、LLCどちらの担がんマウスにおいても非昇圧群よりも高い抗腫瘍効果を示した。以上の結果から、AT IIによる昇圧下で投与されたリポソーム製剤は、腫瘍の血流量の違いに関わらず、腫瘍深部に抗がん薬を送達させることで高い抗腫瘍効果を誘導できるものと考えられた。
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