研究概要 |
大麻主成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)は我が国において厳しい法規制下にあるが、特に海外では、がん患者の悪心・嘔吐予防などの目的で臨床使用されている。このようにTHCはがん患者の吐き気予防を期待して投与されるが、これらの薬理作用はカンナビノイド受容体を介した作用である。先に我々は、THCがカンナビノイド受容体欠損下において、ヒト乳がん細胞増殖の促進作用を示すことを報告した(Toxicology, 259:25-32,2008)。しかしながら、そのメカニズムの詳細は不明であった。本研究により、THCによる乳がん細胞増殖の促進にはシクロオキシゲナーゼ-2由来の代謝物が関与していることが明らかになった。また、乳がん細胞増殖は女性ホルモンにより正の調節を受けるが、興味深いことに、細胞内女性ホルモン濃度が高い環境下においては、THCによる増殖促進作用は見られず、逆に、低濃度下にいては作用が増強された。このことは、THCが乳がん細胞内のホルモン産生系に作用して、その作用を誘導していることを示唆する。本研究は、THCが臨床でがん患者に投与された際、その優れた薬効と共に起こりうる副作用を未然に防ぐことを目的とした予防薬学的基礎研究である。今後は、乳がんモデル動物などを用いた検討が必要である。
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