これまでの遺伝手治療の課題の一つとして、導入遺伝子の発現調節が挙けられている。すなわち、現段階では目的遺伝子を局所ならびに全身に送達することは可能であっても遺伝子導入後にその発現量を制御できず、治療の最適化を行うという段階までには至っていないのが現状である。これまでの研究成果から、真核細胞への活性酸素ストレスが、転写因子であるactivator protein 1(AP-1)活性を増加させ、TPA response element(TRE)を介した下流遺伝子の発現量制御へ関与していることが強く推察されている。そこで、cytomegalovirus(CMV)プロモーター駆動性遺伝子導入細胞に抗悪性腫瘍薬を負荷した際の導入遺伝子発現量の変化について検討した。まず、ラット皮膚由来線維芽細胞であるFR細胞に、CMVプロモーターおよびその下流にrsGFP遺伝子をレポーターとして持つプラスミドベクターであるpQBI25を導入したFR-pQBI25細胞のmonocloneを選別採取した。このFR-pQBI25細胞を100mm culture dishに播種、24時間培養後に培地を置換し、ドキソルビシン(Dox)、5-フルオロウラシル(5-FU)、メトトレキサート(MTX)およびパラコート(PQ)を添加した。この48時間後に細胞より全RNAを抽出し、RT-PCR法によりrsGFPmRNA発現量を測定した。さらに、蛍光光度法を用いて、rsGFPタンパクの発現量を測定した。その結果、Dox、5-FUおよびPQによってCMVプロモーター駆動性遺伝子の発現量が有意に増加し、MTXでは変化しなかった。また、細胞種による差異を観察するために、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞にCWプロモーターおよびその下流にEGFP遺伝子をレポーターとして持つプラスミドベクターであるpEGFPを導入したHepG2-pEGFP細胞のmonocloneを選別採取し、Doxを負荷時におけるEGFPタンパクの発現量を測定した。その結果、DoxによってEGFPタンパク量が有意に増加し、その誘導強度はFR-pQBI25細胞における誘導強度とほぼ一致した。以上の結果から、CMVプロモーター駆動性遺伝子の発現量が特定の抗悪性腫瘍薬によって誘導されること、この誘導現象は細胞種にかかわらず観察されることが明らかとなった。
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