抗がん剤パクリタキセルの副作用である過敏反応は、溶媒であるクレモホールELによる肥満細胞からのヒスタミン遊離促進が原因と従来考えられていたが、我々は主薬自体による知覚神経からのサブスタンスP、ニューロキニンAといった神経ペプチド遊離促進が原因であること、また肥満細胞膜安定化薬ペミロラストが新規の機序により過敏反応を軽減することを報告している。本年度は、過敏反応原因物質を明確にするため溶媒の異なるパクリタキセル注射液における過敏反応の違いについて動物モデルを用い検討した。また、ペミロラスト以外の過敏反応予防薬の探索を行った。現在市販されているパクリタキセル注射液3製剤について肺血管透過性、気管支肺胞洗浄液中タンパク量および動脈血中酸素分圧を指標として検討した結果、すべての項目において3製剤間に相違は認められず溶媒の違いは過敏反応には影響しないことが示唆された。今後、パクリタキセル過敏反応に対するヒスタミン受容体拮抗薬等の前投与の効果における3製剤の違いについて検討を行う予定である。予防薬の探索として、ペミロラストが神経ペプチド遊離抑制により過敏反応を軽減することをすでに報告しているが、神経ペプチドを介して気道過敏を抑制する薬物は他にも数種報告されている。ラット肺血管透過性亢進を指標として、これら薬物の過敏反応抑制効果を検討した結果、イブジラストに抑制傾向が認められた。今後、イブジラストの抑制効果についてさらに詳細に検討するため、気管支肺胞洗浄液中タンパク量および動脈血中酸素分圧の測定あるいは病理学的評価として肺組織切片における血管周囲浮腫の観察を行う。また、パクリタキセルによる知覚神経からの神経ペプチド遊離促進に対するイブジラストの効果を検討し、ペミロラストと同様の機序により過敏反応抑制効果を示すのか確認を行う予定である。
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