ヒ素の体内動態を明らかにするためには、生体内におけるヒ素の化学形を安定かつ高感度に測定することが必要不可欠である。ヒ素の代謝にはグルタチオン(GSH)が密接に関与すると考えられることから、代謝物の測定の際にはヒ素化合物とGSHとの同時測定が必要となる。また、ヒ素の代謝におけるGSH関連酵素の測定も重要となる。そこで、以下の研究を行った。 1.ヒ素化合物とGSHの同時測定の検討とLC-MSとの比較:ヒ素および硫黄の分析はICP-MSとLC-MSを用いて行い、両者の感度、再現性、汎用性などを比較し、測定条件を検討した。様々な条件検討を行ったが、硫黄の高感度分析は現在達成出来ておらず、また酸素を導入することによりヒ素の感度が低下した。一方、LC-MSはICP-MSと比較して定量性に欠けることがデメリットとして挙げられる為、今後さらなる検討を行う必要がある。以上の結果から、現在のところICP-MSおよびLC-MSを併用して代謝物の同定および定量を行うことが望ましいと示唆された。 2.ヒ素-グルタチオン(As-GSH)抱合体の分解および酸化におけるγ-glutamyl transpeptidase(GGT)の影響:As-GSH抱合体の分解、および酸化に関するGGTの役割をin vitroで調べた。GGTとヒ素化合物との反応は、LC-MSを用いて、As-GSH抱合体とその分解物を測定することにより評価した。その結果、GGTによりAs-GSH抱合体は毒性の高い3価ヒ素化合物へと分解することが分かった。
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