膀胱上皮は神経に類似した性質をもっており、ある種の感覚器であると目されている。中でも、膀胱の伸展に伴い膀胱上皮から放出されるアセチルコリン(Ach)は、過活動膀胱の発症に重要な役割を果たすと考えられている。膀胱上皮におけるAch分泌に関する分子のうち、分泌輸送体および伸展刺激受容体の発現様式と局在を組織化学的に解析する。また、過活動膀胱の病態モデルにおけるそれら分子の発現変化を調べることが本研究の目的である。まず、初年度はAchと拮抗的に働くアドレナリンの関与を明らかにすべく、膀胱上皮のα1Aアドレナリン受容体の排尿における役割をさぐった。免疫組織化学とブロッティング解析において、ラットの膀胱上皮がα1Aを発現していた。α1Aの免疫反応は上皮表層のアンブレラ細胞(被蓋細胞)に特異的に認められた。意識下のラットにおいて膀胱内ノルアドレナリンの投与は膀胱の排尿間隔を有意に短縮した。最大排尿圧maximum voiding pressureには影響が出なかった。α1Aの拮抗剤であるtamsulosinの前処置(静脈内投与)によりノルアドレナリンの作用が消失した。しかし、tamsulosinの膀胱内前投与は影響しなかった。別のα1A拮抗剤であるsilodosinの前処置(膀胱内投与)により、ノルアドレナリンによる膀胱収縮反応は起きなかった。以上の結果から、膀胱上皮のα1Aとα1Dは膀胱の求心路に影響し、排尿反射を起こしやすくする(排尿間隔を短縮する)ことが示唆された。排尿は交感神経系と副交感神経系により調節されている。これらの調節系の入力部が膀胱上皮に存在すると予想される。これらの知見を元に、対峙するアセチルコリン調節系の関与を明らかにすれば、排尿調節系の全容が明らかになるであろう。
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