本研究は、脳内の水の移動ルートおよびその発生過程に伴う変化を理解することを目的とし、脳におけるアクアポリン(AQP)水チャネルの分布局在を検討してきた。前年度はラットを用いた解析をおこなったが、本研究者がこれまでにおこなってきたAQPの研究から、ラットとマウスではAQPの発現様式に違いが見られることが示唆される。AQPノックアウトマウスの解析をおこなう上での基礎データとして、マウスにおけるAQPの正確な分布局在を明らかにすることはきわめて重要であり、本年度はラットとマウスの比較検討をおこなった。脳を中心としてマウス組織を広範囲に検討していたところ、マウスの呼吸器系でのAQPの分布局在に興味深い結果が得られたので、詳細な検討をおこない論文として発表した。ラットではAQP5の発現は上部呼吸器の腺細胞とI型肺胞上皮細胞に限られるとの報告があるが、本研究でマウスの呼吸器上皮を詳細に検討したところ、鼻腔から肺胞にかけて広範囲に管腔面の細胞膜にAQP5が発現することが判明した。中でもラットではI型肺胞上皮にのみAQP5の発現がみられ、II型肺胞上皮には発現していないが、マウスではI型肺胞上皮に加え、II型肺胞上皮にも非常に高いレベルでの発現が認められた。呼吸器上皮の管腔表面には液体層が存在し、その量や、成分の調節は呼吸機能の維持のために重要である。その際に上皮細胞の管腔側細胞膜に分布するAQP5が水の透過経路として重要なはたらきをしていることが考えられる。また、基底側にはAQP3およびAQP4が分布することから、これらの水チャネルを介して経上皮細胞的な水の移動が可能である。ラットとマウスでとくにAQP5の分布が異なる理由の解明は今後の課題であるが、呼吸器上皮の水代謝を理解する上できわめて重要な結果が得られた。
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