これまでの研究で、エストロゲン高感受性ラットを用いてエストロゲン誘発プロラクチノーマを作成し、下垂体でRALDH1 mRNA発現が減少することを見出した。そこで、エストロゲンのアゴニストであるDESを詰めたサイラスティックチューブを皮下に移植し、プロラクチノーマを誘発した後、DESチューブを除きプロラクチノーマの変化とそれに伴うRALDH mRNA発現の変化をリアルタイムPCR法により定量解析した。DESにより形成されたプロラクチノーマはDESを除くことで縮小したが、3ヶ月経過しても正常な下垂体の大きさには戻らなかった。プロラクチノーマではRALDH1発現は著しく減弱しており、DESを除いてもその発現は抑制されたままであった。これらの結果からRALDH11の抑制による局所でのレチノイン酸合成の低下がプロラクチノーマの形成に関与する可能性が考えられた。 さらに、正常下垂体前葉から細胞を単離し、レチノイン酸を添加した培地で培養した後、各前葉ホルモン遺伝子及び視床下部ホルモン受容体遺伝子の発現をリアルタイムPCR法により定量解析した。前葉ホルモンのうち成長ホルモン、プロラクチンは増加し、甲状腺刺激ホルモンは抑制された。受容体では成長ホルモン放出刺激ホルモン受容体及びドーパミン2型受容体の発現が促進された。All trans-、9cis-レチノイン酸ともに濃度依存的、時間依存的に各種遺伝子発現を変化させた。これまでの結果から、下垂体前葉でレチノイン酸が合成され、オートクライン、パラクラインによりホルモン遺伝子の発現を制御する可能性が示唆された。また、レチノイン酸は視床下部ホルモン受容体遺伝子の発現にも作用することから、視床下部ホルモンの感受性を高め、間接的に分泌を制御していることが示唆された。
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