研究課題
近年、1次線毛の機能についての研究が盛んに行なわれ、その化学的・物理的受容機能や細胞増殖との関連が明らかにされてきた。また、1次線毛関連タンパク質の異常により、嚢胞性腎疾患が生じることが明らかとなり、尿細管上皮細胞における1次線毛の研究が盛んに行なわれるようになった。しかし、糸球体足細胞(上皮細胞)に関しては、一次線毛が存在するかどうかすらはっきりせず、意見が対立したままであった。そこで研究代表者は、まず哺乳類のラットにおいて、足細胞における1次線毛の有無を連続超薄切片法により調査した。胎児期の未分化な足細胞では1次線毛が高率(約85%)に確認されたが、成体の成熟足細胞では1次線毛は全くみられなかった。予備的な調査ではあるが、これと同様な結果は、鳥類(ウズラ、ニワトリ)においても確認されている。また、いくつかの下等脊椎動物(ヌタウナギ、カワヤツメ、ゼブラフィッシュ)では、成体の成熟足細胞においても、1次線毛が残存していることが明らかとなった。ラットにおいて、足細胞から1次線毛が消失するメカニズムや意義については、今後の研究課題であるが、現時点では原尿の流れがその消失に関与しているのではないかと推測している。哺乳類では、糸球体濾過量が他の動物群に比して、桁違いに大きく、糸球体表面では大きな乱流が発生すると推測される。したがって、糸球体の発生・発達に伴い、哺乳類の足細胞では1次線毛が激しく揺さぶられ、これを介し、細胞内に流入するカルシウムイオンが次第に増加すると推測される。カルシウムイオンの過剰流入は、細胞内シグナル伝達などに悪影響を及ぼすことが知られており、哺乳類の足細胞における1次線毛の消失は、過剰なカルシウムイオンの流入を防ぐうえで、重要な現象であると考えられる。また、下等脊椎動物では、糸球体濾過量が極めて小さく、1次線毛が揺さぶられる程度も小さいはずである。したがって、これらの動物群では、足細胞から1次線毛を消失させる必要性がないものと考えられる。
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Anatomical Science International DOI:10,1007/s12565-009→0071-9
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