血管の形態を制御する因子としてDown Syndrome Critical Region 1 (DSCR1) の機能解析を行った。DSCR1は心血管異常を伴うダウン症の原因遺伝子の1つとして考えられているが、血管形成に関する研究は未だ行われていない。先ず、DSCR1のクローニングを行った。次にT7プロモータを用い、DSCR1のmRNAを作製/精製し、アフリカツメガエルの受精卵に導入した。初期胚におけるDSCR1産物の血管への影響を観察したところ、DSCR1の過剰発現によって、intersomitic vesse1付近の細い血管が5割ほど減少し、血管の分岐が抑制されることが分かった。さらに、DSCR1の機能を抑制するcalcineurin Aを共発現させたところ、血管分岐が正常に戻ることが分かった。これらのことから、DSCR1の血管形成、特に血管分岐での機能が確認された。現在、Morpholino Oligonucleotideを用いたノックダウン実験も行っており、土台となる基礎データの収集が終わりつつある。 平成20年度に行った研究からDSCR1の過剰発現によって血管の分岐が抑制されることが明らかになった。本研究の重要性は、1) DSCR1の血管形成への関与を直接示したこと、2) 血管形成を抑制する生体内の因子の存在が稀であること、などにある。これら2点は、大動脈疾患から末梢血管疾患まで、様々な形態の血管が関与する血管系疾患の治療において、特定の血管形成を抑制する内在性因子として、DSCR1の有用性、本研究の意義を示す。
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