ニワトリ、スッポン、それぞれの種特異的形態が明らかとなる発生段階において、ホールマウント免疫組織化学染色によって胚の脊髄神経の形態を、頸部、胸腹部、尾部で比較した。その結果、頸部、尾部において両者は同様な形態を示していたが、胸腹部ではスッポンの腹皮枝が明らかに形成されなかった。その原因については調査中であるが、カメの肋骨が体壁に侵入しないことを考えると体壁において肋骨原基の移動および軸索誘導に関わる何らかのシグナル分子の発現が失われているのではないかと考えられる。また将来の甲羅の縁となる甲稜では、その背側の真皮が背皮枝によって、腹側の真皮が外側皮枝によって支配されていた。過去の研究から甲稜を形成する間葉は体節に由来し、甲稜腹側端に体節由来の真皮と、体壁葉中腫葉由来の真皮の境界があることが分かっているが、今回の結果は脊髄神経の支配領域がおおむねその支配する間葉の発生学的由来に従うものの、必ずしも厳密に一致するものではない事を示唆している。また人体解剖学では、ヒトの腹皮枝は腹直筋を貫き、その終枝は正中部の感覚神経となるが、ニワトリでは腹直筋を貫かず終枝は感覚神経とはならなかった。このことはヒト正中部の腹皮枝支配領域が哺乳類の系統で新たに作り出された領域であることを示唆していると考えられる。また、マウス、ニワトリ、スッポン胚にて肩帯の発生をin situハイブリダーゼションを用いて比較したところ、肩甲骨そのもの甲発生は大変良く保存されていること明らかとなった。
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