生体内のマグネシウム濃度は、腎臓の尿細管での再吸収によって厳密に調節される。マグネシウム不足は循環器疾患、糖尿病、一部の悪性腫瘍などの発症に関与すると報告されている。しかし、マグネシウム再吸収を担う輸送体の実体とその調節機構は不明な点が多い。我々は、腎臓のヘンレ上行脚に発現するパラセリン-1がマグネシウム輸送体として働くことを報告してきた。本研究では、パラセリン-1の転写調節と細胞内局在の調節に関与するタンパク質について検討した。パラセリン-1を内在的に発現する細胞を、上皮成長因子(EGF)で処理すると、パラセリン-1mRNAが増加した。過去に報告されたプロモーター領域を用いてレポーターアッセイを行ったが、EGFが作用する領域は存在しなかった。このことからEGFは他の未知領域に作用すると示唆された。FLAGタグを融合したパラセリン-1発現細胞を作製し、蛍光免疫染色法により細胞内局在を調べた。上皮成長因子受容体のシグナル伝達機構を阻害すると、パラセリン-1は脱リン酸化してタイトジャンクションから解離した。さらに、上皮膜間の電気抵抗値とマグネシウム透過性が低下した。パラセリン-1の細胞内局在を詳細に調べたところ、脱リン酸化したパラセリン-1は、リソソームに移行して分解されることが明らかになった。パラセリン-1と同じファミリーに属するクローディン-2は、EGFによってリン酸化され、リソソームに移行して分解された。パラセリン-1とクローディン-2のリン酸化による細胞内局在の制御機構は異なることが明らかになった。以上のように、本研究ではEGFがパラセリン-1の転写と細胞内分布の調節に関与することを明らかにした。また、Yeast two hybrid法において、パラセリン-1のカルボキシ領域に結合する新しいタンパク質の同定に成功し、今後の機能の解明が期待される。
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