はじめに、マウス胸部大動脈・大動脈弓血管内皮細胞のm-カルパイン発現をRT-PCR法および免疫組織化学染色法により確認したところ、血流が乱流状態となり、動脈硬化が好発する大動脈弓の下部において強い発現が認められた。 この発現パターンから、シェアストレスが層流または乱流状態で作用した場合血管内皮細胞のカルパイン発現に対して異なる影響をおよぼす可能性が考えられたので、培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞に乱流状態でシェアストレスを負荷し、層流条件下の発現変化と比較した。その結果、血管内皮細胞に乱流状態でシェアストレスを負荷してもm-カルパイン発現に変化は認められなかったが、層流状態でシェアストレスを負荷すると刺激開始から24時間の時点で発現の低下が認められた。したがって、大動脈弓下部におけるm-カルパインの局在はシェアストレスのパターンに依存したものである可能性が高い。次に、血管透過性の制御に対するカルパインの役割を解明する目的で、in vivoにおける検討を行った。マウスにカルパイン阻害薬ALLMを投与すると、大動脈弓下部において局所的な血管透過性の亢進が認められたが、この亢進はRho kinase阻害薬Y-27632を同時に投与することで抑制された。次に、「カルパイン特異的siRNAをマウスの静脈内に投与し、大動脈弓におけるカルパインの発現をWestern blot法により確認したところ、タンパク質レベルでm-カルパイン発現の低下が認められた。siRNAマウスにおいて血管透過性を評価したところ、大動脈弓でコントロールマウスと比較して著しい血管透過性の亢進が認められた。したがって、m-カルパインは大動脈弓の血管内皮細胞において、Rho kinase経路に対して何らかの影響をおよぼすことで血管内皮バリア機能を潜在的に保護している可能性が示唆される。
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