目的-内皮細胞は血管の内腔に存在するため、血流に起因する機械的な刺激(シェアストレス)を直接受容する。これに伴い、血管内皮はバリア機能の変調などの細胞応答(いわゆる機械受容応答)を呈することが報告されている。しかしながら、機械受容応答のキーとなる分子は未だ明らかになっていない。本研究では機械受容応答調節因子の候補としてCa2+感受性の細胞内プロテアーゼであるカルパインに着目し、その役割について明らかにすることを目的とした。 結果および考察-マウス大動脈内膜におけるm-カルパインのmRNAおよびタンパク質発現を確認したところ、いずれも血流が乱流状態となる大動脈弓の下部において顕著であった。マウスにカルパイン阻害薬またはm-カルパインsiRNAを投与すると、大動脈弓でRhoキナーゼ阻害薬感受性の血管透過性亢進が認められ、亢進部位では内皮細胞間ギャップの肥大化、ストレスファイバーの過剰形成、リン酸化LIMキナーゼ2の発現増加ならびにRhoA活性の亢進が認められた。HUVECsに乱流状態でシェアストレスを負荷したところ、RhoA活性の亢進およびリン酸化LIMキナーゼ2の発現増加が認められたが、これらの応答はm-カルパインをノックダウンすることによりさらに増強された。 なお、脳血管炎に対するm-カルパインの関与を検証する目的で、マウス光化学刺激誘発中大脳動脈血栓モデルの作製にも着手した。このモデルを用いて既存の血栓溶解薬である組織型プラスミノゲンアクチベータの作用を確認できたことからモデル作製に成功したと考える。 結論↓m-カルパインはシェアストレス存在下の内皮細胞形態制御に重要な役割を担うことが明らかとなった。同時に、m-カルパインは大動脈弓下部などの動脈硬化好発部位においてRhoA活性の亢進に拮抗することで、血管内皮バリア機能を保護していることが明らかとなった。本研究の結果は、血流による血管透過性制御にm-カルパインが関与することを初めて証明した点で重要であり、この分子が動脈硬化症の発症や脳梗塞時の血管炎に対してどのような影響を及ぼすか、病態との関わりを今後検証していきたいと考える。
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