KCNQ1は心臓などで発現している電位依存性カリウムチャネルである。単独でもカリウムチャネルを構成することが可能であるが、同じく心臓で発現するKCNE1と共発現することで非常にキネティクスの遅いイオンチャネルに変化する。この特徴的な電流は心臓の活動電位のペースを調節する役割を担っており、どちらの遺伝子の変異も不整脈の原因となりうることが知られている。しかしながらKCNE1が補助サブユニットとして結合することでどのようにしてKCNQ1の機能が修飾されるのかはよくわかっていない。 海産無脊椎動物であるカタユウレイボヤのゲノムにはKCNE1遺伝子が存在しないため単カタユウレイボヤのKCNQ1ホモログである、Ci-KCNQ1はKCNE1によって機能修飾を受けないのではないかと予想し、KCNE1によるチャネル機能の修飾において、ヒトのKCNQ1のどの部位が重要であるかを同定することを試みた。アフリカツメガエル卵母細胞にCi-KCNQ1を単独で発現させると、ヒトのKCNQ1同様電位依存性のカリウム電流が観察されたが単KCNE1を共発現させてもその電流の性質にはあまり変化が見られず、ヒトKCNQ1で見られるような機能修飾は起きていないことが確認できた。そこでヒトとカタユウレイボヤの間でキメラタンパク質を作成し、機能修飾に重要な部位の同定を試みたところ、5番目から6番目の細胞膜貫通領域であるS5-S6セグメントがヒト由来であることが、機能修飾に重要であるという結果を得た。さらに絞込みを進めることで、S5セグメント上のグリシンと、S6セグメント上の二つのバリン、これら3つのアミノ酸残基が重要な役割を担っていることまで同定することができた。KCNE1による機能修飾のメカニズムに関して、新しくかつ重要な知見を得ることができた。
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