研究概要 |
細胞は時々刻々と変化する環境に適応しながら生きるために、多様な刺激に対応して恒常性を保っている。本研究では、細胞の恒常性を保つための機構である細胞容積調節能を基盤にTRPチャネルの暴走による破綻が招く細胞死を解明する。TRPは、細胞外環境を感知するイオンチャネルであることから細胞容積調節能に深く関わっている候補として挙げられる。実際に生体内で起こりうる異常環境や刺激物質を用いるとTRPチャネルは異常活性化、不活性化、さらには遺伝子発現の変化を引き起こす。今まで細胞容積調節機構にTRPM7が大きく関与することは報告してきた。そこで、TRPM7その実体の性質をよりよく知るためにイオン透過機構および活性化メカニズムを検討した。HEK293T細胞にTRPM7を発現した細胞にパッチクランプ法ホールセルモードを適用して電流を測った結果、TRPM7は1価カチオンおよび2価カチオンを透過させるチャネルであるという今までの報告に加えて、内向き整流性のプロトン電流を観察した。また、このプロトン電流に対する生理的濃度のCa2+とMg2+の影響から、pH5.5付近でプロトンは2価カチオンと同じ結合サイトを競合して透過することが分かった。そこで、TRPM7におけるプロトンの通り道と考えられるボア領域の負電荷アミノ酸を中性化する点変異(E1047A, E1052A, D1054A, D1059A)を導入した結果、D1054Aでは、電流が大きく抑制され、E1052A, D1059Aでは、部分的に抑制された。これらのことより、プロトンはTRPM7のボア領域における負電荷アミノ酸部位を介して流入していることが明らかとなった。今後、異常環境下にした場合の、TRPチャネルの暴走から容積調節能の破綻、細胞死に至るまでの機構を解明する。
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