本研究では筋性疼痛モデルとして"遅発性筋痛"モデルを用いている。最近、研究代表者の所属研究室において、遅発性筋痛における機械痛覚過敏に神経成長因子が極めて重要であることが見出された。そこで、今年度は脊髄ニューロンの記録に先立ち、神経成長因子による末梢骨格筋C線維受容器の機械感作作用に関して、単一神経記録法による電気生理学的研究により検討し、行動レベルでも神経成長因子が筋機械痛覚閾値に及ぼす影響を調べた。その結果、神経成長因子は骨格筋C線維を顕著に感作し、ラットの機械逃避閾値を有意に低下させ、筋機械痛覚過敏生成に重要な生理活性物質であることを見出し、論文発表した(J Neurosci. 2010)。また、筋性疼痛は加齢とともに増大することから、骨格筋C線維活動の加齢による影響を体系的に調べ、論文投稿準備中である。今年度は、耐震改修に伴う所属研究室の引越を余儀なくされ、2度にわたる実験セットアップの解体と、立ち上げ作業に大きな労力と時間が割かれたものの、脊髄後角ニューロンの細胞外記録実験が軌道に乗り始めたところである。平成22年度は、引き続き、腓腹筋から入力を受ける脊髄後角ニューロンの電気生理学的特性の解析を行い、遅発性筋痛モデルと正常ラットを比較することで、筋性疼痛の中枢機構を明らかにすることを目的とする。また、これまでの結果を踏まえ、神経成長因子による機械感作効果も考慮に入れて脊髄や上位中枢ニューロンの実験を進める予定である。また、c-Fosタンパクの発現を指標にした免疫組織化学実験による、"遅発性筋痛に関わる脳部位の特定"に関しても、引き続き検討を進めていく。
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