筋や筋膜に由来する痛みは加齢とともに増悪し、医学的・社会的に重要度が高い。しかし、その末梢、および中枢神経機構には未だ不明な点が多い。本年度は、1)侵害受容器活動の加齢による変化を体系的に調べるため、表在組織として筋、深部組織として皮膚を対象に単一神経記録を行い、また、2)腰部筋や胸腰筋膜に受容野をもつ脊髄後角ニューロンの細胞外記録を行い、侵害受容組織としての筋膜の新しい生理学的役割について検討し、3)遅発性筋痛におけるグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)の関与を検討した。これらより得た所見は以下の通りである。1.加齢による侵害受容器の機械反応は、皮膚では減弱し、筋では逆に増大した。2.胸腰筋膜に受容野をもつ脊髄後角ニューロンが記録でき、実験的筋炎モデルにおいて、記録されるニューロンの割合が有意に増加した。3.遅発性筋痛を呈した筋でGDNF産生が増加し、GDNFの筋への投与によって、機械逃避閾値が低下した。 以上の所見は、(1)侵害受容器活動の加齢による変化は、表在組織(皮膚)と深部組織(筋)で異なる、(2)筋膜は正常時の侵害受容を担い、病態時の痛覚過敏にも寄与する、(3)遅発性筋痛時の機械痛覚過敏に神経成長因子だけではなく、GDNFが関与することを示している。特に、(2)はこれまで円滑な骨格筋の収縮に寄与するための単なる支持組織としてしか考えられてこなかった筋膜に、"侵害受容"という全く新しい生理学的役割を付与する成果である。
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