研究概要 |
老化に伴う認知機能の低下は日常の生活を困難にする。老化の影響には顕著な性差が認められ、各性に適した老化の予防法の開発が今、医療現場で求められている。私は、現在までに、認知機能の維持に重要な役割を果たすコリン作動性神経の活動が、生活している環境の影響をうけること、さらにその影響には性差が存在することを一連の研究から明らかにした(Takase et al., 2005a, 2005b, 2006, 2007, 2008)。本研究は、上記の研究結果をもとに、老化に伴うコリン作動性神経の活動低下を予防するための各性に適した生活環境を同定することを目的としている。平成20年度は、研究拠点を現所属に移し、雌雄ラットについて認知機能の発達、老化依存的な変化を行動、神経活動のレベルで検討するための評価系の構築に主に従事した。具体的には、5種の行動課題(8方向放射状迷路課題、モリス水迷路課題、社会的再認課題、物体再認課題、受動的回避学習課題)および功in vivoマイクロダイアリシス法の系を確立した。また、研究の過程で、物的記憶機能の性差の神経基盤を副次的に解明し、結果をNeuroscience誌に発表した後9日目と11日目)の間で低栄養状態にすると、感覚、運動、認知機能は正常であるにも関わらず、雄(Takase et al., 2009)。平成21年度は研究の途上、偶然にも、ラットを乳児期後期から幼児期初期(生性ラットのみが、情動性を測定する試験において、不安行動を元進し、特定箇所を執拗に探索する行動(常同行動)を呈し、さらに、社会性を測定する試験において他個体との関わりを減少させることを発見した(Takase et al., 2009)。これら一連の行動異常は、雌性ラットにはまったく認められなかった。研究結果は、成熟後の脳機能を育むために必要な乳幼児期の食環境が雌雄で異なることを示している。雄性ラットは、乳幼児期における低栄養状態に非常に脆弱であり、この時期における食環境が成熟後の情動性や社会性にまで影響を与えることが示唆された。しかしながら、乳幼児期の低栄養状態を原因とする成熟後の行動異常の背景にある脳内分子機構は明らかにされていないため、現在その解析を行っている。
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