本研究の目的は、(1)体温概日リズムにおける、活動期と非活動期で変化すると予想される調節メカニズムベの時計遺伝子の1つClockの関与を明らかにすること、および(2)摂食ペプチドは時間特異的体温調節システムを修飾する因子であるか否かを明らかにすることであった。 当該年度は(1)の目的について実験を行い、以下の結果を得た。 1)時計遺伝子Clockの変異マウスでは、野生型で見られた絶食時の時間特異的な体温調節は認められない。 2)野生型マウスでは絶食によって視床下部の神経活動に昼夜で大きな差が生じるが、Clock変異マウスでは違いが認められない。 3)時計中枢の視交叉上核は、絶食により神経活動が亢進し、交感神経活動に関わる室傍核に抑制性の出力を送る。 以上の結果は、作業仮説と一致し、概日時計システムが時間特異的な体温調節を修飾することを示唆している。交感神経活動に関与する室傍核が時計情報を仲介する役割を担うことは、体温以外の概日リズム調節にも有用な知見となり得る可能性がある。また、視交叉上核が単なる時計の役割だけでなく、生体内のエネルギーバランスを把握し、それに応じた出力をしていることは意義深く、来年度の計画である摂食ペプチドとの関連につながるものと考えられる。 当該年度後半に計画していた摂食ペプチドを投与する実験については、摂食ペプチドの直接的な働きを先に検証するため、レプチン欠損マウスを用いた実験を前倒して行い、寒冷負荷時の体温調節反応の測定を行った。その結果、レプチン欠損マウスは、自由摂食状態において、暗期と明期両方で寒冷時に体温が低下し、低下の程度は暗期と明期で同じであることがわかった。このことは、絶食時に引き起こされるレプチンの低下が体温調節反応を弱めることに寄与しており、時間特異的な体温調節を引き起こす引き金にはならないことを示唆している。
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