ラットを用いた本研究によって、産後に不安様行動、うつ様行動がみられ、これら一連の行動変化は低濃度の17β-estradiolを4日間投与すると、みられなくなることを明らかにした。また、ERαの作用薬を4日間投与することでも、同様の効果がみられることから、エストロジェンの抗不安および抗うつ効果は、ERαを介する可能性が出てきた。ERβの作用薬では、このような変化はみられなかった。不安様行動、うつ様行動がみられる産後3週目のラット海馬、扁桃体では、脳内神経栄養因子(BDNF)のレセプターであるTrkBのタンパク発現量が増加していた。BDNFの変化はみられなかった。また、産後3週目のラット海馬(CA1)、扁桃体(Am)におけるERα免疫陽性細胞数は、性周期が回帰する産後5週間目と10週間目の非発情期ラットおよび同週齢の非発情期未経産ラットと比較して、有意に少ないことを明らかにした。興味深いことにこれら行動の変化の回復がみられる、性周期が回帰する産後5週間目と10週間目の非発情期ラットでは、同週齢の非発情期未経産ラットと比較して、CA1、DG、AmおよびMPOAにおけるERα免疫陽性細胞数が多いことを新たに明らかにした。 以上のことから、産後3週目のラットは、不安様行動、うつ様行動がみられ、そのメカニズムにERαを介したTrkBの発現の変化が関与していることが明らかとなり、本研究は、産後うつならびに産後精神病の動物モデルとしての有用性ならびにERα作用薬の創薬への可能性を示唆する結果となった。
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