神経栄養因子が作用する認知、情動行動への影響に対して、どのようにドパミン神経系が関与しているかが研究目的である。本計画では、これら神経栄養因子がドパミン神経系に影響を与えることで間接的に記憶および情動などの制御やその障害に関わっている可能性を検討している。20年度はEGF過剰発現マウスの行動解析とEGFを過剰に作用させたラットの行動解析およびをチロシン水酸化酵素(TH)の発現変化の解析を行った。 (1) 遺伝子改変マウスの作製EGF遺伝子の改変マウスを作成し、行動実験に使用した。このマウスは自発運動量が高く、嫌悪学習が低下する傾向であった。マウスでは条件付け学習の成立が難しかった。そのため、EGFを過剰に作用させたラットを実験に使用した。(2) EGFを過剰に作用させたラットの行動解析で、嫌悪学習を用いた固執性異常の解析に有効なLatent inhibition(潜在学習抑制)を測定したところ、過剰発現群で有意な抑制が認められた。この脳機能変化における栄養因子の関与が示唆された。(3) シグナルタンパク因子の測定をするために、行動解析の後、脳を取り出し前頭皮質、海馬、線条体、側座核などに区分けし、THの発現変化を測定した。EGFを過剰に投与した群でTHファイバーの増加が見られた。したがって、THが増加することでドパミン量の放出が増大する可能性が示唆され、行動の変化に対してドパミン神経の関与が考えられた。
|