心筋小胞体におけるCa^<2+>輸送は心筋収縮制御や心不全に密接に関わるが、これを調節する蛋白質にホスホランバン(PLN)がある。現在、PLNの心筋小胞体への局在機構は明らかでないが、その局在を制御できれば新たな心不全治療方策に繋がる。そこで本研究では、PLNの小胞体局在における分子機構解明を目的とした。まず、アミノ酸52残基から成るPLNにおいて、小胞体局在に重要な部位を探索した。種々の変異(アミノ酸の逐次削除やアラニン置換など)PLNを作製して細胞に発現させ、各々の細胞内局在を免疫染色によって解析した。その結果、C端領域におけるアミノ酸変異で小胞体への局在が喪失したことから、このC端領域のアミノ酸構造がPLNの小胞体局在に重要な構造要因であることが示された。次に、このC端領域と相互作用して"PLNの小胞体局在を制御する蛋白質X"の同定に着手した。まず抗PLN抗体を用いた共免疫沈降法を試みた。しかしながら、PLNは極めて疎水性が高く、これを可溶化する段階で相互作用相手との結合が損なわれる可能性がある。そこで、免疫沈降前にPLNと蛋白質Xを強固に架橋結合させておくことを考えた。これには相互作用部位(C端領域)近傍への架橋起点の導入が必須である。先のアミノ酸変異/局在解析において、C末端52位アミノ酸は局在に影響しないことが判明しており、ここに架橋起点となるシステイン残基を導入したホスホランバン変異体が作製可能である。ところで、免疫沈降法では大量の抗体を用いるが、それ自身のノイズが解析を困難にする。そこで、抗体に代わってPLNと特異的に結合するアプタマーの開発に着手した。SELEX法によりPLNへ高い特異性を持つものを選別し、その獲得に成功した。このアプタマーはDNAからなるためにノイズを回避でき、高特異的・高感度な蛋白質Xの同定が可能となる。
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