心筋収縮は筋小胞体におけるCa2+輸送により制御され、ここでの異常は心不全に繋がる。ホスホランバン(PLN)は心筋小胞体に存在しCa2+輸送を調節する蛋白質である。PLNの小胞体局在を制御できれば従来に無い心不全治療方策に繋がる。そこで本研究では、PLNの小胞体局在機構の解明を目的とした。昨年度に得た、小胞体局在にはPLNのC端領域が重要であるとの情報を元に、今年度はPLNのC端領域と結合し、その局在を制御する蛋白質Xの同定を試みた。具体的には、PLN-蛋白質X複合体を化学架橋し、抗PLN抗体を用いて共免疫沈降させ、蛋白質XをMSで同定する。まずPLNのC末端にチオール基を持つシステイン残基を導入し架橋起点とした。PLN側チオール基、蛋白質X側アミノ基を標的に、ヘテロ2価架橋剤により化学架橋→免疫沈降を行った。ここでは、複合体間距離と架橋分子長のマッチングが重要となる。そこで、様々な分子長(4~30A)の架橋剤を揃え、個々に対し詳細な条件検討を行ったが、PLN(C端)結合蛋白質は検出されなかった。そこで蛋白質X側の適切な部位にアミノ基が存在しない可能性を考慮し、官能基非特異的に共有結合可能な光架橋剤に置き換えて同様の実験を行ったが、残念ながら現在まで未同定である。本研究ではPLNに高い親和性、特異性を持つDNAアプタマーの開発に成功しており、これを用いた高効率免疫沈降システムを支援技術に現在検討中である。最近、PLNのホモログ・サルコリピンがC端領域に小胞体局在配列を持ち、ヒートショック蛋白質の結合が示唆されたことから、当初これに類似の機構がPLNにも推定された。しかしながら、C端部のアミノ酸相同性が低いことや、PLNのC端はサルコリピンのように小胞膜から明瞭に突出していないといった相違もあり、PLNの小胞体局在機構は先の推定以外の様式であることが考えられた。
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