研究概要 |
スタチン系コレステロール低下薬は、世界で数千万人の服用者がおり、年間売上高は約3兆円である。横紋筋融解症、脱力、腱断裂といった有害作用があるが、その機序は良く分かっていない。 我々は高脂血症治療薬スタチンによる筋力低下のメカニズムを調べた。初代培養ラット骨格筋線維はフルバスタチン・シンバスタチン処理で、筋小胞体Ca^<2+>遊離剤による収縮が時間・濃度依存的に抑制された。スタチンは細胞内Ca^<2+>濃度を上昇させても筋収縮を抑制したが、収縮蛋白機能に異常はなかった。一方、細胞内ATP量はスタチン処理(10μM, 72時間)で非処理群の約20%に低下しており、これが筋力低下の一因と考えられる。 我々はまた、水溶性スタチンの筋毒性発症機序も解析した。プラバスタチンは水溶性であり、骨格筋細胞膜非透過と考えられる。従って、理論上筋肉への副作用は低いはずだが、臨床試験では他の脂溶性スタチンと有害事象発生率に差は無い。我々はラット骨格筋線維にプラバスタチンを投与すると臨床血中濃度に近い濃度で筋毒性を示すことを見出した。一方、従来の骨格筋モデルとされるL6ラット骨格筋芽細胞では臨床濃度の1万倍の高濃度でも毒性は無かった。ラット骨格筋にはプラバスタチンを細胞内へと輸送する薬物トランスポーター、有機アニオントランスポーティングポリペプチド(Oatpla4, Oatp2b1)が発現していたが、L6細胞では発現が見られず、このトランスポーターによるプラバスタチンの取り込みが毒性に関与することが示唆された。 本研究成果は、より副作用の少ない高脂血症治療薬やスタチンの有害作用対処法の開発につながる有益な知見である。
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