研究概要 |
スタチン系高コレステロール血症治療薬は横紋筋融解症や筋脱力といった骨格筋障害をひきおこす。本研究はこれらの解明を目指した。 フルバスタチン(0.1-10μM)存在下でラット骨格筋線維を培養すると、3日間で筋の空胞変性がはじまり、5日間で細胞死が観察される。この現象はスタチンがメバロン酸の代謝産物ゲラニルゲラニルピロ燐酸(GGPP)を枯渇させ、小胞輸送蛋白Rabのゲラニルゲラニル化(GG化)を阻害することが原因である(Sakamoto et al., FASEB J2007)。今回さらに、この原因となるRabアイソフォームと膜輸送経路の同定を試みた。Rab1は小胞輸送系の根幹である小胞体(ER)-ゴルジ輸送に必須のアイソフォームである。フルバスタチン処理した筋線維を調べたところ、Rab1蛋白の膜移行(活性化)が阻害されていた。これはスタチンがER-ゴルジ輸送を抑制することを示唆する。さらにER-ゴルジ輸送阻害薬ブレフェルジンAは、スタチン様の空胞変性と細胞死を呈した。よって、Rab1の阻害がスタチンの毒性に関与すると考えられる。 スタチンの筋収縮力低下について調べた。フルバスタチン・シンバスタチン存在下で3日間培養した骨格筋線維は筋小胞体Ca^<2+>放出薬カフェインによる収縮が低下した。小胞体からのCa^<2+>放出量はスタチン処理により低下した。しかし、イオノマイシンで細胞外からのCa^<2+>流入による収縮も抑制したことから、この他に筋収縮を抑制する機序が存在すると考えられた。さらに検討したところ、スタチンは筋線維のATP量を約1/5に減少させており、これも収縮抑制に関与すると考えられる。スタチンによるATPの低下は、GGPPで回復したが、ユビキノンでは回復しなかった。またGGTI-298やペリリルアルコールといった蛋白質GG化阻害薬もATPを低下させた。よってスタチンによるなんらかの蛋白質のGG化抑制がATPの減少に関与すると考えられる。
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